遷移金属イオンと錯体形成する成分を溶離液に使用することで,これらのイオンの分離を改善することが可能です。
陽イオンの中には,アルカリ金属イオン,アルカリ土類金属イオンといった通常分析されている典型元素のほかに,めっき液などで使用される遷移金属イオンがあります。陽イオン交換クロマトグラフィーの溶離液として使用されるメタンスルホン酸などの強酸性の水溶液では,典型元素の分離はできても,遷移金属イオンは分離が困難な場合がほとんどです。
遷移金属イオンは,孤立電子対を持つ化合物と錯体を形成することが知られています。そこで,錯形成作用を有する化合物を溶離液に添加することで,遷移金属イオンの見かけ上の価数を変化させ,保持をコントロールすることが可能になります。
ここでは,カルボキシル基を官能基とするノンサプレッサ用陽イオン交換カラムを用い,しゅう酸水溶液を溶離液とした場合のNi+,Zn2+,Fe2+の保持時間の変化についてご紹介します。
しゅう酸は,低級脂肪酸の中では比較的イオン化しやすい (強酸に近い) 性質を持っており,メタンスルホン酸と同様に陽イオン分析用の溶離液によく用いられる化合物です。また,しゅう酸はジカルボン酸であり,遷移金属イオンと錯体を形成しやすい性質を持っています。
そこで,錯形成しやすいしゅう酸と,あまり錯形成を行なわないメタンスルホン酸の混合水溶液を溶離液とすることで,遷移金属イオン (Ni+,Zn2+,Fe2+ など) の保持をコントロールすることが可能となります。しゅう酸濃度を高くすると錯体の存在確率が高くなるため,イオンの価数が見かけ上小さくなり,遷移金属イオンの溶出が早くなります。
遷移金属イオンの保持を上手にコントロールすることができれば,典型元素イオン (Na+,K+,Mg2+,Ca2+ など) との一斉分析も可能となります。