一部のイオンの吸着・溶出が認められるため,お勧めできません。
HPLC 用のマイクロシリンジはガラス製の筒部とステンレス製のプランジャ部からできており,両者はプランジャを動かす度に擦れあっています。マイクロシリンジに吸い込まれた試料はまさにその擦れあっている部分に接触するため,吸着や溶出といった現象が発生します。吸着されるイオンの代表はりん酸イオンです。注入体積と濃度が小さい場合,ピークが全く現れなくなることさえあります。
溶出するイオンとしては,ナトリウムイオンや鉄イオンなどが挙げられます。陽イオン分析において,精製水をマイクロシリンジで注入するとこれらのピークが出現することがあります。
以上のことから,イオンクロマトにおいては試料注入にマイクロシリンジを使用することはお勧めできません。樹脂製注射器に専用の針を取り付け,マニュアルインジェクタに装着されている試料ループの少なくとも3 倍量以上の溶液をゆっくりと押し込みましょう。余分に押し込んだ試料は系外に排出され,ループの容積分だけが分離カラムへ導入されます (ループ計量法といいます)。
なお,オートサンプラを使用する場合にはこの問題は発生しません。ニードルが金属製であっても,試料と接触する部分は擦れあっていませんので,吸着や溶出の心配はありません。また,オートサンプラの機種によっては上記のループ計量法にて注入できるものもあります。