試料として多量に注入されたイオンが溶離液の一部のように振る舞い,微量イオンの溶出に影響を与えたものと考えられます。
通常カラム内では,分析対象イオンに比べて溶離液に含まれるイオンの濃度の方が圧倒的に大きく,その状態で両者はイオン交換基の奪い合いを行っています。しかし,試料中に第3 のイオンが多量に存在している状況では,分析対象イオンの周りはその第3 のイオンで占められ,それらがあたかも溶離液イオンのように振る舞うことになります。そのことにより,分析対象イオンの保持時間が長くなったり短くなったり,あるいはピーク形状が変化したりする現象が発生します。これを「自己溶出作用」と呼んでいます。
このような現象が実際に起こっているかどうかを確認するには,その試料に分析対象イオンを添加してイオンクロマトに注入してみるのが確実です。標準溶液と同じ保持時間に溶出しないようなら,自己溶出作用が働いていると見ることができます。
このような現象が起こった場合の対策としては,試料を希釈する,あるいは注入量を減らすのがもっとも簡単な方法です。分析対象イオンを添加した試料を用いて,どの程度まで希釈したらこの作用が働かなくなるかを検証しましょう。
感度面の要求から希釈できない場合は,次の2 つの方法のどちらかをとるしかありません。
• 前処理により,共存するイオンを除去する。または分析対象イオンのみを抽出する。
• イオン交換容量の大きな分離カラムを用い,溶離液も塩濃度の高いものに変更する。
後者は,電気伝導度検出においてはバックグラウンドが高くなるため,あまり現実的ではないかもしれません。UV 検出などの場合は,塩濃度が高くてもバックグラウンド吸光度の小さい塩を用いれば問題ないので,やってみる価値があると思われます。