サプレッサ通過後の溶離液のpH が弱酸性となるため,酸解離定数の違いにより,ぎ酸に比べて酢酸の方が解離が抑えられるためです。
サプレッサ方式の溶離液としてよく用いられる炭酸ナトリウム緩衝液のpH は9 以上です。この状態では,ぎ酸や酢酸などの低級脂肪酸はほぼ解離 (イオン化) した状態で存在しています。
一方,サプレッサにより溶離液中のNa+が除去されてH+が入ってくると,そのpH は理論的には4.5 付近になります。電気伝導度検出器で検出されるのはイオンのみですから,このpH においてイオン化しているか非イオン状態であるかによって検出感度が変わります。
ぎ酸の酸解離定数 (pKa) は3.75,酢酸のそれは4.74 です (Merck Index 12 版による)。「酸解離定数」の意味については化学の教科書などを見ていただくとして,ここでは「弱酸の場合,溶液のpHが酸解離定数より小さい (酸性側である) なら非イオン状態の比率が大きくなり,大きい (アルカリ性側である) ならイオン化した状態の比率が大きくなる」ことだけを押さえておけばよいでしょう。ぎ酸については,その酸解離定数よりも溶液pH の方が大きいですから,そのほとんどがイオンとなって存在していると思われます。一方の酢酸については,その酸解離定数と溶液pH はほぼ同じであり,ざっとその半分は非イオン状態として存在しているものと考えられます。
このことから,炭酸系溶離液を使ったサプレッサ方式において,酢酸のピークはぎ酸のそれに比べて小さくなります。両者の重量濃度が同じなら,酢酸の面積値はぎ酸の半分以下になるでしょう。
サプレッサ方式で酢酸イオンをある程度感度よく測定したいときには,炭酸ナトリウムの代わりにほう酸ナトリウム緩衝液を用いるのが効果的です。ほう酸は炭酸より弱い酸であるため,サプレッサ通過時のpH は6~7 程度となり,酢酸も十分にイオン化します。下図に,溶離液としてほう酸塩を使った場合と炭酸塩を使った場合とのピークレスポンスの比較を示します。
炭酸系およびほう酸系溶離液のサプレッサ方式におけるクロマトグラム例
(ふっ化物イオンのピークで規格化して表示。ピークレスポンス比較のため縦横倍率を修正)