サプレッサによって溶離液が純水に変化し,pH 緩衝力がなくなるためです。緩衝力がなければアンモニウムイオンの濃度の増加につれてpH がアルカリ側に変化し,その解離 (イオン化) を抑制します。
アンモニウムイオンはNH3 とNH4+の平衡状態にあり,溶離液のpH によって状態が変化します。酸性条件下ではNH4+の存在比率が増していますが,pH 上昇と共にNH4+は減少し,NH3 の比率が増えてきます。
一方,電気伝導度検出器はイオンだけを選択的に検出する性質を持つため,NH4+は検出できてもNH3 はほとんど検出できません。したがって,解離状態が一定であれば目的成分の総濃度 (この場合はNH3 とNH4+ の合計濃度) とレスポンスとの関係は直線的になりますが,解離状態が濃度レベルによって異なるようなら両者の関係は直線にはなりません。
ノンサプレッサ方式の場合 :
溶離液として,通常硝酸,しゅう酸,メタンスルホン酸などの希薄な酸の水溶液を用います。酸性ですからアンモニアの解離平衡は常にNH4+側に大きく傾いています。したがって,検量線は常に直線的になります。
サプレッサ方式の場合 :
溶離液にはノンサプレッサの場合とほぼ同じものが用いられますが,サプレッサを通過する際に溶離液中の陰イオン成分が除去され,代わりにOH−が入ります。つまり,電気伝導度検出器に流れ込む時点では,溶離液は真水に変化しているということになります。
真水にアンモニアを加えると,ごく低濃度では中性のままですが,濃度が高くなるにつれてアルカリ性に変わっていきます。アルカリ性になるほどNH4+からNH3 へと平衡がずれていきますから,電気伝導度のレスポンスの増加が鈍る,という結果につながるわけです。
上図には,サプレッサ方式 (“SP”と表記) とノンサプレッサ方式 (“NSP”と表記) における,各イオンの検量線の例が示されています。ナトリウムイオンなどの強塩基イオンの場合は方式にかかわりなく直線的な検量線が得られますが,アンモニウムイオンやアミン類などの弱塩基イオンについては,サプレッサ方式の場合のみ曲線的な検量線となります